アウトソーシングとインソーシング

崩壊するアウトソーシング : IT Pro ITレポート(動向/解説)

昨年9月15日、世界のIT業界に衝撃が走った。米銀2位のJPモルガン・チェースが、米IBMと結んでいた巨大アウトソーシング契約を解消するとのニュースが流れたからだ。2002年12月の契約締結時、IT業界の話題をさらった7年間50億ドル(5250億円)の超大型案件は、わずか1年9カ月で破談に至った。JPモルガンは今後、企画・開発から保守・運用に至る全IT業務を社内でまかなうインソーシング(自前主義)に完全回帰する。

「崩壊するアウトソーシング」とはショッキングなタイトルだが、個人的には当たり前のことがおきているとしか思えない。完全自前(インソーシング)と完全委託(アウトソーシング)の中間はないのか?と思わずケチをつけたくなる記事だが、「アウトソーシング万能」といっているベンダにとっては、大きな波の揺り返しの第1波かもしれない。

業績の回復に伴って、現場から新規のシステム化案件がどんどん出てくるのに、アウトソーシング先のベンダーはなかなか動いてくれない」といった愚痴ばかり。「アウトソーシング費用の内訳をいっさい知らされない現状では、ベンダーへの支払い額が妥当かどうか検証できない」、「最初はよくやってくれていたが、担当者が代わったら、契約を盾に融通をきかせてくれなくなった。アウトソーシング前よりサービスレベルは低下した」といった不満の声も数多い。そこにはアウトソーシング契約の締結当初に期待した“ばら色の未来”は存在しない。

いくつか象徴的な言葉をピックアップしてコメント。

●新規のシステム化案件がどんどん出てくるのに、アウトソーシング先のベンダーはなかなか動いてくれない

動きたくても動けないのだ。そもそも安定運用と新規案件といのはどうしても相反する利害を生む事象だ。ベンダ側の体制もさることながら、ユーザ側にもベンダを動かすテクニックが求められる。

アウトソーシング費用の内訳をいっさい知らされない

知らせたくないベンダの事情がそこにはある。アウトソーシングは所詮、ハードソフトの内部調達と運用の効率化により利益を生み出す商売だ。手の内を知られること=ぎりぎりまでコスト削減を要求されることになる。

●ベンダーへの支払い額が妥当かどうか検証できない

これを言った担当や経営者の顔が見てみたい。ではどうして契約したのか?
支払い額が妥当でない契約を推進した本人と捺印者はどこにいったのか?サービスの規模が大きくなったり、複雑化することにより、「以前自社でかかっていたコストにくらべたら○%削減できる」という魔法の言葉がなくなるのだ。

●担当者が代わったら、契約を盾に融通をきかせてくれなくなった。

ベンダのエースは新規案件に優先にアサインされる。ユーザ側はセカンド、サードがきても大丈夫なように契約を考えておくべきだ。今後契約はよりユーザに不利になる傾向が続くだろう。

アウトソーシング前よりサービスレベルは低下した

サービスレベルというと数値化された指標に基づいた判断と思われるが上記の場合大体が感覚。だからして、担当者の変更や、エンジニアの何気ない1つのメールでの回答が問題視されることも多い。
またベンダの営業と顧客の間でSLAという指標について具体的にやりとりされることは一部を除き、非常に少ない。

どちらにしても振り子は大きく戻りはじめるかも知れない。その戻りに対する準備をきちんとしたサービスプロバイダが生き残ると思う。